受益者が複数いる自己信託

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司法書士さいとう司法書士事務所
青森市大野でさいとう司法書士事務所を経営している代表齋藤洋介です。 相続を中心として業務を行っています。 趣味は自転車(ロードバイク)、青森市内のラーメン店巡り、司馬遼太郎の小説を読むことです。

民事信託を使えば、今まで成年後見制度を利用しても解決できない問題に対応することができます。

そこで、事例を通して民事信託を利用した問題解決について考えてみたいとおもいます。

【 参考文献 民事信託の実務と信託契約書例 】

課題

自己信託

高齢の相談者Xは姉と姉の子と同居している。なお、姉の子には障害がある。

相談者Xはアパートを所有しているが、その家賃収入で3人の生活費を賄っている。

できるだけ相談者が自身の財産を管理してこの生活を続けていきたいが、

自分の判断能力が衰えてきたらという不安がある。

相談者は衰えがきたら、自身の財産を甥に任せたいという希望もある。

 

民事信託の利用を考える

まず相談者のために成年後見制度を利用してみるという考えもあるが、

後見人が選任されると、財産管理は基本的に後見人が行うことになる。

よって、できるだけ相談者自身で財産を管理していきたいという希望を満たせない。

そこで、相談者が委任者であり、受益者兼受託者となる自己信託の利用を考えてみたい。

自己信託を利用すれば、相談者が受託者として財産管理をすることができ、

なおかつ、後継受託者に甥を指定することもできる。

自己信託のスキーム

自己信託のスキームは以下のとおりとなる。

委託者 相談者X

受託者 相談者X 後継受託者 甥

受益者 相談者X、姉、姪

信託財産 アパート

こうすることで、希望どおり、姉、相談者、姪が受益者として家賃収入を受け取り、

今後の生活をしていくことが可能となる。

また、後継受託者に甥を指定しておくことで、相談者が衰えた後も安心である。

ほかにも残余財産をだれに帰属するかも、あらかじめ指定しておくことも可能である。

このケースでは、甥か姪を指定しておくのが現実的かもしれません。

 

自己信託を利用する場合の注意点

自己信託で委託者兼受託者兼受益者となり、なおかつ受益者が1人だけの場合、

信託法第163条2項により、信託は1年間で終了してしまうので、要注意である。

そこで、相談者だけでなく、姉、姪も受益者としておくべきである。

こうすることで、信託を継続させることが可能である。

ただし、受託者兼受益者の相談者と受益者のみの姉、姪が存在しているので、

相談者と他の受益者の利益相反が生じることになるので注意が必要である。

そこで、相談者には受託者としての忠実義務と利益相反の禁止について、

よく理解してもらうことが大事である。

場合によっては第三者に監督してもらうこともいいかもしれない。