判断能力が低下(認知症)の人が作成した遺言書の有効無効について

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司法書士さいとう司法書士事務所
青森市大野でさいとう司法書士事務所を経営している代表齋藤洋介です。 相続を中心として業務を行っています。 趣味は自転車(ロードバイク)、青森市内のラーメン店巡り、司馬遼太郎の小説を読むことです。
認知症遺言作成

ここでは、認知症の人が作成した遺言書の効力について、また、自筆証書遺言と公正証書遺言での証拠力のちがい、認知症が進行した後の遺言書の書き直しについて書いています。

遺言はほぼ誰でもできますが、

そもそも遺言ができる人は誰かは簡潔に決められています。

民法第961条

十五歳に達した者は、遺言をすることができる

民法で決めているのはたったのこれだけです。

ですから、15歳以上であればだれでも遺言書は書けます。

しかし、年齢制限をクリアしたからといって、そのすべての遺言書が有効だとは言えないのがミソです。

要件を満たしていても無効になってしまうことがあります。

というのも、遺言書を書くには当たり前ですが、遺言を書くという意思が必要であり、

なおかつ預金はどれくらいあって、不動産はどこにどれだけあるかなどを遺言を作成する段で把握しているのが自然です。

また、だれにどれだけの財産を渡すのかを判断しないといけません。

つまり、

  • 遺言書を書くという意思
  • 判断能力

以上が遺言書を書くには必要なことになります。

ですから、いくら内容、形式が整ったとしていても意思と判断能力がなければ、その遺言書はまったくの無効になってしまいます。

 

判断能力の低下した人(認知症)が作成した遺言書

さて前置きが長くなってしまいましたが、本題の「判断能力が低下した(認知症)人が作成した遺言書」が有効か無効についてになりますが、

結論から言うともちろん無効です。

前述したように意思と判断能力に欠けるからです。

それでは話はこれでおしまいとなってしまうのですが、ことはそう簡単ではありません。

なぜなら、判断能力が低下したというのは客観的にはよくわからないからです。

遺言書を書く本人も周りの人も医者の診断でも受けていないかぎり、認知症だとは断定できないのが実情ではないでしょうか。

また、遺言書を書いた時点がどうだったかも問題になりやすいです。

遺言書を書いたときは元気だったけど、数年たったら、認知症が進行したということもありえるからです。

いくら周りの人が「遺言書を書いていたころは元気だったんだ。」と主張しても、

その時点での医師の診断書とか、客観的な証拠がないと水掛け論になるかもしれません。

つまり、遺言書の有効、無効が争いなったときに「判断能力が低下していたから無効だ。」だとか「いや元気だった。」とか、証拠がないかぎり真実をさぐることは難しいところではあります。

 

自筆証書遺言と公正証書遺言での証拠力のちがい

本題から外れますが、一口に遺言書といっても自筆証書遺言と公正証書遺言があります。

自筆証書遺言は、文字通り遺言者がみずからの手で書いたものであり、公正証書遺言は公証人が作成に関与したものです。

判断能力が低下した後に遺言書が作成されたのではと疑われるときに、それが自筆証書遺言なのか、公正証書遺言なのかで、

証拠力に決定的な差がでます。

結論から言うと、公正証書遺言のほうが証拠力があります。

というのも、公証人が作成に関与するからです。

公証人は遺言書作成の当日、遺言者に対してさまざまな質問をします。

「生年月日は?」

「誰に何を渡したいのですか?」

などです。

これらの質問で遺言者の遺言をしたいという意思や判断能力をチェックしているわけです。

ですから、質問にまともに返答できなかったら、おそらく公正証書遺言は作成されないでしょう。

このように第三者の視点が入って作成されたものですから、遺言書を有効だという可能性が強いのです。

逆に自筆証書遺言だと、第三者の視点がないので判断力がしっかりしていた時に書かれた遺言書なのかを判別しにくくなります。

将来、遺言書を書いた時点で認知症だったのかで、有効、無効を争うようになるのを避けるために実務では公正証書遺言で作成するのが主流だと思います。

 

公正証書遺言でも認知症で効力を否定された事例

しかし、残念ながら公正証書遺言だからといって万全とはいえないところがあります。

というのも公正証書遺言で作成されたにもかかわらず、認知症がかなり進行していたから無効になったという事例があります。

公正証書遺言の効力が裁判の場であらそわれました。

ひとつは平成5年6月29日名古屋高裁判例です。

特別養護老人ホームに入所していた遺言者が公正証書遺言を作成したにもかかわらず、

裁判の場で、作成当時は遺言を作成する意思と判断能力がなかったと認定されました。

これにより、遺言の効力は無効になりました。

もちろん、公証人も遺言者に質問なげかけるなどして遺言者の意思を確かめましたが、それらのやりとりは表面上にすぎないとされました。

ほかにも公正証書遺言が無効になった事例も簡単にご紹介します。

これも入院中の91歳の遺言者が作成した公正証書遺言が無効になった例です。

遺言書の作成後に認知症が進行し、遺言作成当時に意思能力が問題となりました。

結局、状況証拠などにより、認知症が進行していた時に作成されたと認定され、効力が否定されました。

以上、ふたつの例で公正証書遺言でも無効になる可能性がおわかりいただけたかと思います。

しかし、あくまで自筆証書遺言よりも公正証書遺言のほうが証拠力という点で優れているので、

私自身も遺言作成の依頼がきたときは公正証書遺言で作成するようにしております。

 

認知症が進行した後に遺言書を書きなおすことはできる?

遺言書を作成した当時は元気だったけど、しばらくたって認知症が進行していたというケースで、

遺言書を書き直すことはできるでしょうか?

元気なときに作成された遺言書を部分的に直す程度なら、問題ないとお考えの方もいるかもしれませんが、

やはり、直すときにも意思と判断能力が必要です。ですから、いったん認知症が進行してしまったら、

もう遺言書を書きなおすことは不可能だと考えたほうがよいかと思います。

 

遺言書作成における認知症対策

こう言ってしまっては身も蓋もありませんが、遺言書作成における認知症対策は認知症が進行するまえに作成するということです。

自分の死後に親族間の対立が予想される、心配な親族がいるというのは事前にわかるものです。

ですから、元気なうちに遺言書を作成するというのが一番の対策です。

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