家族信託の仕組みは簡単です!
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近年、家族信託に注目が集まっています。というのも今までの制度では対応できなかった事態にも対応が可能だからです。
しかし、家族信託に興味があるけど、具体的にどんな仕組みかよくわからないのでいまいち踏み切れないでいるという方のために家族信託の仕組みを解説しています。
家族信託の登場人物は3人
家族信託がわかりにくいものとなっている理由は、登場人物が3人いるからです。
その3人とは委託者、受託者、受益者です。
3人がそれぞれどういう人かを以下に解説していきます。
委託者
委託者は、なんらかの事情で自分のもっている家とか預金といった財産を管理できなくなった人です。
たとえば家は誰も住んでいないと傷んできますし、固定資産税の支払いも滞ると差し押さえされて、最悪、競売にかけられてしまいます。
しかし、委託者は現状、管理はできません。
そこで、自分の代わりに家に定期的に訪問して各部屋に風を入れてくれたり、壊れたところを直してくれたり、とそういう人がいてくれたらいいのです。
受託者
そこで、受託者の登場です。受託者は委託者から頼まれて、委託者の財産を委託者に代わって管理する人です。
委託者との事前の取り決めにしたがって、委託者の財産を管理します。
委託者のお金から固定資産税を支払ったり、取り決めによっては委託者の家を賃貸に出して、家賃を得ることも可能です。
受託者は委託者との取り決めの範囲内であれば、財産を自由に管理したり、処分することができます。
受託者は委託者のためにこまごまと働く責任があります。
受益者
それでは受託者が汗水たらして得た対価をもらうことができる人はだれでしょう。それが受益者になります。
管理のいきとどいた家や家賃収入といった利益をもらえる人です。
受益者といっても抽象的で誰なのかピンとこないかもしれませんが、これも委託者と受託者の間で自由に決めることができます。
受益者は委託者自身であってもいいですし、委託者の子供、ペット、はたまた社団法人でもかまいません。
家族信託の仕組みを図にすると
家族信託の仕組みは以下の図のようになります。
これが基本的な形です。
委託者は受託者に財産を預け(信託)、受託者は管理、運用して利益を出し、その利益を受益者に与えます。
たとえば親、子、孫という3世代にわたるケースでは、
委託者が親、受託者が子、受益者が孫とすることで親から孫への相続に似たこともできます。
しかし、実際は委託者と受益者が同一人物であるケースがおおいです。
以下の図をごらんください。
このように委託者イコール受益者となっています。
たとえば、高齢になって家の管理をするのが難しくなったら、子を受託者として家を管理してもらうといったケースです。
家族信託にしかない特徴
以上が家族信託の大枠になりますが、
「わざわざそんな複雑なことをしなくても任意後見や遺言などで対応できるんじゃないの。」と思うかたもいらっしゃるかもしれません。
たしかに、孫に相続させるには遺言を書けばいいし、親の不動産を子が管理するには任意後見という手もあります。
しかし、家族信託であれば遺言や後見制度ではできないこともできるようになります。
受益者を変えることができる
家族信託では受益者を次から次へと変えることができます。
たとえばAさん、Bさん、Cさんがいたとします。
Aさんは自分の財産をいったんBさんに相続させたあと、Bさんが亡くなったら、Cさんに相続させたいと考えています。
そこで、遺言書に「Bさんに相続させた後にBさんが亡くなったらCさんに相続させる。」と書いても、
「Cさんに相続させる。」という部分は無効です。
これは後継ぎ遺贈と言って、民法ではみとめられないのです。
しかし、家族信託であれば可能です。
形式的に所有者を変えることができる
高齢者の親と子をイメージしてもらえればわかりやすいですが、
高齢になると自身の財産を管理することが難しくなってきます。そこで財産を子に信託することで形式的に所有者を変えることができます。
さきほどの図で説明したとおりです。
所有者を変えることで、子は財産を管理、処分しやすくなります。
後見制度だと、たとえば介護施設に入居するために費用を捻出するために家を売るにも裁判手続きが必要です。
しかし、家族信託を使って所有者を変えていれば裁判手続きといった面倒な手間はありません。
信託財産は独立している
ただ、形式的に所有者を変えるといっても不安を覚えた方もいるかもしれません。
もし受託者が破産してしまったら委託者の財産も差し押さえをされるのではないのかという不安です。
しかし、委託者の財産は受託者の財産とは別のものという扱いになります。
ですから、仮に受託者が破産しても委託者の財産は差し押さえられることはありません。
家族信託で注意しておきたいこと
家族信託であれば、従来の遺言や後見制度では対応できなかったことにも柔軟に対応するうことができます。
これが家族信託を利用するメリットですが、しかし、注意しておきたいこともあります。
受託者をだれにするか
だれを受託者に選ぶかが、ある意味もっともむずかしいところです。
定められた目的を守り、誠実に委任者の財産を管理してくれる人であればいいのですが、常にそうなるとはかぎらないのが世の常です。
ちなみに弁護士や司法書士、行政書士といった法律職がビジネスとして受託者に就任することは信託法が禁じています。
ですから、家族信託では委任者に近い身内や親族を受託者とすることが一般的です。
受託者にだれを選ぶにせよ、定期的に受託者を監査、監督をする第三者をつけるのがのぞましいです。
信託期間が長期間になることもある
前述した後継ぎ遺贈を家族信託で実現するなど、場合によっては30年、50年といった長期間におよぶこともあります。
そのために受託者が亡くなってしまったといった想定外が起きることもありえます。
そこで、どのような事態が起きても対応できる柔軟な仕組みづくりが大事になります。
信託が終わった時の財産は誰のものになるか
信託が終わったときのことも考えておきましょう。
たとえば委託者の死亡で家族信託が終了するという場合には、
信託財産も委託者の相続財産であるので、当然に相続人に相続されます。
しかし、相続人に相続させたくない事情があって家族信託をはじめていたとしたら、困るわけです。
あらかじめ家族信託が終了したときに信託財産は誰にわたるのかを定めておきましょう。