所在等不明者共有者との共有に関する通達
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- 法務省民二第538号 令和5年3月28日 - 2023年10月31日
法務省民二第533号 令和5年3月28日
第1 共有に関する規律の見直し
1 共有物の軽微変更
(1)
共有者が共有物に変更を加える行為であっても、その形状又は効用の著しい変更をともわないもの(以下「軽微変更」という。)については、
各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することとされた
(改正民法第251条第1項、第252条第1項)。
(2)
分筆又は合筆の登記については、前記(1)の軽微変更に該当し、
分筆又は合筆の登記を申請しようとする土地の表題部所有者又は所有権の登記名義人(不登法第39条第1項)の持分の価格に従い、
その合計が過半数となる場合には、これらの者が登記申請人となって分筆又は合筆の登記を申請することができ、
それ以外の共有者らが登記申請人となる必要はない
(改正民法第252条の2第1項に規定する共有物の管理者が代理人となって登記申請をする場合については、後記5のとおり。)。
(3)
登記官は、登記申請人となった共有者らの有する持分の価格に従った合計が過半数であることを登記記録で確認することになる。
(4)
所有権の登記がある土地の合筆の登記申請時に提供を要する登記識別情報(不登令第8条第2項第1号)は、登記申請人に係るもののみで足りる。
(5)
登記官は登記の完了後、登記申請人にならなかった共有者全員に対し、不登規則第183条第1項第1号に基づき登記が完了した旨を通知するものとする
(同条第2項の規定にかかわらず、登記申請人にならなかった共有者全員に通知するものとする。)。
(6)
区分所有法の適用がある建物の敷地(以下「区分所有敷地」という。)の分筆の登記についても、
上記と同様に取り扱うものとする
(区分所有法第25条第1項に規定する管理者が代理人となって登記申請をする場合については、後記5のとおり。)。
2 所在等不明共有者がいる場合の共有物の変更
(1)
共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、
裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者(以下「所在等不明共有者」という。)以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができることとされた
(改正民法第251条第2項)。
(2)
前記(1)の裁判に基づいて共有物に変更が加えられ、これに基づいて当該共有物の変更に係る登記の申請をする場合、
具体的には、後記3(1)アからエまでに掲げる期間を超える賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(以下「長期の賃借権等」という。)を設定し、
当該長期の賃借権等の設定の登記(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利の設定の登記としては、
地上権の設定の登記、永小作権の設定の登記、地役権の設定の登記、賃借権の設定の登記及び採石権の設定の登記がある。以下同じ。)を申請する場合には、
改正民法第251条第2項の趣旨から、所在等不明共有者以外の共有者全員が登記申請人となり(所在等不明共有者は登記申請人とはならないが、登記義務者としてその氏名又は名称及び住所を申請情報の内容とする必要がある。)、
確定裁判に係る裁判書の謄本及び請求を行った共有者が所在等不明共有者以外の他の共有者全員の同意を得て共有物(不動産)に長期の賃借権等を設定したこと(所在等不明共有者以外の共有者全員が契約当事者になる場合と、その一部が契約当事者になる場合がある。)を証する情報が、登記原因を証する情報(以下「登記原因証明情報」という。)となる。
(3)
登記官は、登記の完了後、所在等不明共有者に対して登記が完了した旨を通知することを要しない。
3 共有物の管理(短期の賃借権等の設定)
(1)
共有者が、共有物に次のアからエまでに掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利であって、
次のアからエまでに掲げる期間を超えないもの(以下「短期の賃借権等」という。)を設定することについては、
共有物の管理に関する事項の規律に基づいて各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することとされた(改正民法第252条第4項)。
ア 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 10年
イ アに掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 5年
ウ 建物の賃借権等 3年
エ 動産の賃借権等 6か月
(2)
前記(1)の過半数で決するところにより短期の賃借権等が設定され(当該過半数による決定を行った共有者全員が契約当事者になる場合と、その一部が契約当事者になる場合がある。)、
これに基づいて当該短期の賃借権等の設定の登記を申請する場合には、
改正民法第252条第4項の趣旨から、
各共有者の持分の価格に従い、その過半数を有する共有者らが登記申請人となれば足りる
(当該共有者ら以外の共有者らは、登記申請人とはならないが、登記義務者としてその氏名又は名称及び住所を申請情報の内容とする必要がある。)。
また、当該過半数で決するところにより短期の賃借権等が設定されたことを証する情報が登記原因証明情報となる。
この場合には、登記官は、登記申請人となった共有者らの有する持分の価格に従った合計が過半数であることを登記記録で確認することになる。
(3)
登記官は、登記の完了後、登記申請人にならなかった共有者全員に対し、不登規則第183条第1項第2号の場合に準じて登記が完了した旨を通知するものとする
(同条第2項の規定にかかわらず、登記申請人にならなかった共有者全員に通知するものとする。)。
4 所在等不明共有者等がいる場合の共有物の管理
(1)
裁判所は、①共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき、
②共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、
当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないときは、
当該①又は②の他の共有者(以下この項において「所在等不明共有者等」という。)以外の共有者の請求により、
当該所在等不明共有者等以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができることとされた
(改正民法第252条第2項)。
(2)
前記(1)の裁判に基づいて所在等不明共有者等以外の共有者の持分の価格に従い、
その過半数で決するところにより短期の賃借権等が設定され(当該過半数による決定を行った共有者全員が契約当事者になる場合と、その一部が契約当事者になる場合がある。)、
これに基づいて当該短期の賃借権等の設定の登記を申請する場合には、
改正民法第252条第2項の趣旨から、所在等不明共有者等以外の共有者のうち、
各共有者の持分の価格に従い、その過半数を有する共有者らが登記申請人となれば足り(当該共有者ら以外の共有者らは登記申請人にはならない。)、
確定裁判に係る裁判書の謄本及び所在等不明共有者等以外の共有者の持分の価格に従い、
その過半数で決するところにより短期の賃借権等が設定されたことを証する情報が、登記原因証明情報となる。
この場合には、登記官は、登記申請人となった共有者らの有する持分の価格に従った合計が過半数であることを登記記録で確認することになる。
なお、登記申請人とはならなかった共有者らについても、登記義務者としてその氏名又は名称及び住所を申請情報の内容とする必要がある。
(3)
登記官は、登記の完了後、所在等不明共有者に対して登記が完了した旨を通知することを要しないが、
所在等不明共有者以外で登記申請人にならなかった共有者全員に対し、
不登規則第183条第1項第2号の場合に準じて登記が完了した旨を通知するものとする
(同条第2項の規定にかかわらず、所在等不明共有者以外で登記申請人にならなかった共有者全員に通知するものとる。)。
5 共有物の管理者等
(1)
共有物の管理者の選任等共有物の管理者の選任及び解任は、
共有物の管理に関する事項として、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することとされた(改正民法第252条第1項)。
選任された共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができるが、共有物に変更(軽微変更を除く。以下同じ。)を加えることについては、
共有者の全員の同意を得なければならないこととされた(改正民法第252条の2第1項)。
また、共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、
裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該所在等不明共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができることとされた(同条第2項)。
(2)
分筆又は合筆の登記
ア
共有物の管理者が共有物について分筆又は合筆の登記を申請する場合には、管理者を選任した共有者らが登記申請人となり、それ以外の共有者らは登記申請人となる必要はない。
当該共有物の管理者が分筆又は合筆の登記の申請をする場合には、管理者を選任した共有者らの代理人として行うものと解される。
この場合には、法定の要件(改正民法第252条第1項)を満たしていることを担保するため、
共有持分の価格を合算して過半数となる表題部所有者又は所有権の登記名義人が登記申請人となることを要する。
イ
前記(1)の過半数による決定により共有物の管理者を選任したことを証する情報が、代理人の権限を証する情報となる(これとは別に登記申請について代理権を授与したことを証する情報の提供は要しない。)。
この場合には、登記官は、登記申請人となった共有者らの有する持分の価格に従った合計が過半数であることを登記記録で確認することになる。
なお、分筆の登記を申請する場合には、代理人の権限を証する情報に印鑑証明書の添付は不要であるが、共有物の管理者を選任した共有者らの押印を要し、
合筆の登記を申請する場合には、共有物の管理者を選任した共有者らの押印及び作成後3か月以内の印鑑証明書の添付(電子申請の場合にあっては電子署名及び不登規則第43条第1項各号に規定する電子証明書の提供。以下同じ。)を要する。
ウ
登記官による登記が完了した旨の通知については、前記1(5)と同様に取り扱うものとする。
(3)
区分所有敷地の分筆の登記
ア
区分所有法第39条第1項及び第17条第1項に基づき、集会において、区分所有敷地の分筆の登記申請行為を区分所有法第25条第1項所定の管理者に行わせることについて
区分所有者及び議決権の各過半数(規約に別段の定めがある場合には、その定めによる割合。以下同じ。)による決議がされた場合において、
当該管理者が当該決議に基づいて区分所有敷地の分筆を申請する場合には、当該集会決議を行った区分所有者らが登記申請人となり、それ以外の区分所有者らは登記申請人となる必要はない。
当該管理者は、当該集会決議を行った区分所有者らの代理人となると解される。
この場合には、法定の要件(区分所有法第39条第1項及び第17条第1項)を満たしていることを担保するため、
区分所有者及び議決権の各過半数の者(表題部所有者又は所有権の登記名義人)が登記申請人となることを要する。
イ
一筆の土地のどの部分を分割するかという区画決定行為及び区分所有敷地の分筆の登記申請行為を管理者に行わせることについて決定された旨の内容が明らかにされた集会決議の議事録が、
代理人の権限を証する情報となる(これとは別に登記申請について代理権を授与したことを証する情報の提供は要しない。)。
この場合には、登記官は、区分所有者及び議決権の各過半数の者が登記申請人となっていることを登記記録で確認することになる。
なお、集会決議の議事録は、区分所有法第42条第3項により議長及び集会に出席した区分所有者の二人の署名を要するとされているが、登記申請に当たってはその印鑑証明書の添付は不要である。
おって、集会決議の議事録が電磁的記録で作成されている場合において、
書面申請の方法により登記申請をするときは、不登令第15条に規定する磁気ディスク(不登規則第52条第1項に規定する電子署名を含む。)及び同条第2項所定の電子証明書の提供を要する。
ウ
登記官による登記が完了した旨の通知については、前記1(5)と同様に取り扱うものとする。
(4)
短期の賃借権等の設定
ア
共有物の管理者が、共有物について短期の賃借権等を設定し
(管理者自らが契約当事者になる場合と、共有者の全部又はその一部が契約当事者になり、管理者がこれらの者から委任を受けて契約を締結する場合がある。)、
当該短期の賃借権等の設定の登記を申請する場合には、管理者を選任した共有者らが登記申請人となり
(それ以外の共有者らは、登記申請人とはならないが、登記義務者としてその氏名又は名称及び住所を申請情報の内容とする必要がある。)。
当該共有物の管理者は、管理者を選任した共有者らの代理人となって申請をすることになると解される。
イ
過半数による決定により共有物の管理者を選任したことを証する情報が、
代理人の権限を証する情報(共有物の管理者を選任した共有者らの押印及び作成後3か月以内の印鑑証明書の添付がされたもの)となる
(これとは別に登記申請について代理権を授与したことを証する情報の提供は要しない。)。
この場合には、登記官は、登記申請人となった共有者らの有する持分の価格に従った合計が過半数であることを登記記録で確認することになる。
ウ
登記官は、登記申請人にならなかった共有者全員に対し、不登規則第183条第1項第2号の場合に準じて登記が完了した旨を通知するものとする
(同条第2項に規定にかかわらず、登記申請人にならなかった共有者全員に通知するものとする。)。
(5)
長期の賃借権等の設定
共有物の管理者が共有物について長期の賃借権等を設定し
(管理者自らが契約当事者になる場合と、共有者の全部又はその一部が契約当事者になり、管理者がこれらの者から委任を受けて契約を締結する場合がある。)、
当該長期の賃借権等の設定の登記を申請する場合には、共有者全員が登記申請人となり、管理者がその代理人となって申請をすることになる。
この場合には、上記(4)の代理人の権限を証する情報として挙げたものに加えて、
各共有者が共有物について長期の賃借権等を設定したことに同意したことを証する情報(作成者の押印及び作成後3か月以内の印鑑証明書の添付がされたもの)が代理人の権限を証する情報として必要となる
(不登令第18条)。
(6)
所在等不明共有者以外の共有者らの同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判があった場合における不動産登記の取扱い
共有物の管理者の請求により前記(1)の所在等不明共有者以外の共有者らの同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判があった場合における不動産登記の取扱いは、
前記(5)及び所在等不明共有者がいる場合の共有物の変更(前記2)における取扱いと基本的に同様であるが、
当該裁判に関する確定裁判に係る裁判書の謄本は、過半数による決定により共有物の管理者を選任したことを証する情報を兼ねることができる。
6 裁判による共有物の分割
裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができることとされた(改正民法第258条第2項)。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有物に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができることとされた
(改正民法第258条第4項)。
なお、共有物の分割の裁判に係る従前の不動産登記事務の取扱いに変更はない。
7 所在等不明共有者の持分の取得
(1)
不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、
裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該所在等不明共有者の持分を取得させる旨の裁判をすることができることとされた(改正民法第262条の2第1項前段)。
この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求した各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させることとされた(同項後段)。
この規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用することとされた(同条第5項)。
(2)
前記(1)の請求をした共有者に所在等不明共有者の持分を取得させる裁判があり、当該裁判に基づいて当該持分の移転の登記の申請がされた場合には、
当該持分を取得した共有者は、当該所在等不明共有者の代理人となると解される。
また、確定裁判に係る裁判書の謄本が代理人の権限を証する情報及び登記原因証明情報となる。
この場合において、登記原因は「年月日民法第262条の2の裁判」と記載し、登記原因の日付は当該裁判が確定した日(当該裁判がされた日ではない。)とする。
なお、登記識別情報を提供することを要しない。
おって、所在等不明共有者が死亡していることは判明したが、戸除籍の廃棄等により、その相続人のあることが明らかでない場合には、
当該持分の移転の登記の前提として、当該死亡した所有権の登記名義人の氏名変更の登記(相続財産法人名義への変更登記)をする必要がある。
この登記の申請は、所在等不明共有者の相続財産法人が登記申請人となり、当該持分を取得した共有者が、その代理人となって行うことになる。
この場合には、当該持分が相続財産法人に帰属する旨が記載された確定裁判に係る裁判書の謄本が代理人の権限を証する情報及び登記名義人の氏名変更を証する情報となる。
8 所在等不明共有者の持分の譲渡
(1)
不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、
裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、
当該所在等不明共有者以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができることとされた
(改正民法第262条の3第1項)。
この規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用することとされた(同条第4項)。
また、所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判の効力が生じた後2か月以内にその裁判により付与された権限に基づく所在等不明共有者の持分の譲渡の効力が生じないときは、
その裁判は、その効力を失うこととされた。ただし、この期間は、裁判所において伸長することができることとされた(改正非訟法第88条第3項)。
(2) 前記(1)の裁判があり、当該裁判に基づいて所在等不明共有者の持分全部の移転の登記の申請がされた場合には、請求を行った共有者は、所在等不明共有者の代理人となると解され、確定裁判に係る裁判書の謄本が代理人の権限を証する情報となる。また、所在等不明共有者の持分全部の移転の登記の登記原因の日付は、当該裁判が効力を有する期間内である必要があるため、登記官は、当該登記原因の日付が当該裁判の確定後(当該裁判をした日を基準とするのではない。)2か月以内(裁判所による期間の伸長があったことを証する情報が提供された場合には、当該伸長された期間内)であるかを確認しなければならない。これらの期間内でない登記原因の日付による登記の申請は、不登法第25条第13号及び不登令第20条第8号の規定により却下しなければならない。これに対し、所在等不明共有者の持分全部の移転の登記の申請を上記期間内にする必要はない。
なお、登記識別情報の提供をすることを要しない。これに対し、対象不動産が農地である場合には、農地法(昭和27年法律第229号)所定の許可を証する書面の添付を要することは、従前
のとおりである。
また、所在等不明共有者が死亡していることは判明したが、戸除籍の廃棄等により、その相続人のあることが明らかでない場合には、当該持分全部の移転の登記の前提として、当該死亡した所有権の登記名義人の氏名変更の登記(相続財産法人名義への変更登記)をする必要がある。
この申請は、所在等不明共有者の相続財産法人が登記申請人となり、請求を行った共有者がその代理人となって行うことになる。この場合には、当該持分が相続財産法人に帰属する旨が記載された確定裁判に係る裁判書の謄本が代理人の権限を証する情報及び登記名義人の氏名変更を証する情報となる。
第2 所有者不明土地管理命令又は所有者不明建物管理命令
1 所有者不明土地管理命令
(1) 所有者不明土地管理命令の登記
ア 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人による管理を命ずる処分(以下「所有者不明土地管理命令」という。)をすることができることとされた(改正民法第264条の2第1項)。また、裁判所は、所有者不明土地管理命令をする場合には、当該所有者不明土地管理命令において、所有者不明土地管理人を選任しなければならないこととされた(同条第4項)。さらに、所有者不明土地管理命令があった場合には、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分について、所有者不明土地管理命令の登記を嘱託しなければならないこととされた
(改正非訟法第90条第6項)。
イ 所有者不明土地管理命令の登記の記録例は、別紙の1(1)及び3のとおりとする。
ウ 所有権の登記名義人が死亡し、相続登記が未了である場合において、その相続人が所有者となった土地又は共有持分について所有者不明土地管理命令がされたときは、所有者不明土地管理命令の登記をするためには、その前提として、相続登記をする必要がある。この相続登記の申請は、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分に係る相続人が登記申請人となり、所有者不明土地管理人がその代理人となって行うことになる。この場合には、裁判所に提出された戸籍関係書類の裁判所書記官の認証に係る謄本を相続を証する情報として取り扱うことができるものとする。また、裁判所書記官の作成に係る所有者不明土地管理人選任及び印鑑証明書(共有に関する非訟事件及び土地等の管理に関する非訟事件に関する手続規則(令和4年最高裁判所規則第13号)第14条。以下「管理人の印鑑証明書」という。)又は所有者不明土地管理命令の裁判書謄本が代理人の権限を証する情
報となる。
なお、所有者不明土地管理命令の対象である土地又は共有持分に係る所有権の登記名義人が死亡していることは判明したが、戸除籍の廃棄等により、その相続人のあることが明らかでない場合には、所有者不明土地管理命令の登記をする前提として、当該死亡した所有権の登
記名義人の氏名変更の登記(相続財産法人名義への変更登記)をする必要がある。この登記名義人の氏名変更の登記の申請は、所有権の登記名義人の相続財産法人が登記申請人となり、所有者不明土地管理人がその代理人となって行うことになる。そして、管理人の印鑑証明書又は所有者不明土地管理命令の裁判書謄本が代理人の権限を証する情
報となる。
この場合において、所有者不明土地管理命令の決定書からその変更の事実が明らかとならないときは、所有者不明土地管理人作成の報告書(変更があったことを具体的に証する内容のもので、所有者不明土地管理人が記名押印したものに限る。また、管理人の印鑑証明書の添
付を要する。)を当該登記名義人の氏名について変更があったことを証する情報として取り扱うものとする。
エ 所有者不明土地管理命令の登記は、所有権の処分の制限の登記に該当するため、所有者不明土地管理命令の登記の嘱託がされた土地に表題登記がない場合又は所有権の登記がない場合には、登記官は、職権で、表題登記及び所有権の保存の登記をしなければならない(不登法第76条第2項及び第3項)。この場合における登記の記録例は、別紙の4及び5のとおりとする。
なお、所有者不明土地管理命令がされた土地について表題登記がなく、その所有者を知ることができないときは、裁判所の嘱託情報の内容に従い、表題部所有者や所有権の登記名義人の氏名又は住所を「住所不明 氏名不詳」などと登記するものとする。
おって、表題登記がない土地又は所有権の登記がない土地について所有者不明土地管理命令の登記がされたとしても、所在等が不明である土地の所有者に対しては、不登規則第184条第1項の規定による通知を行う必要はない。
オ 所有者不明土地管理命令の登記は、上記エのとおり、「処分の制限の登記」に該当し、当該登記の登録免許税は、不動産の価額の1000分の4となる(登録免許税法(昭和42年法律第35号)別表第一の一の項(五)、第11条第1項)。
(2) 所有者不明土地管理命令の取消し等
ア 裁判所は、所有者不明土地管理命令を変更し、又は取り消すことができることとされた(改正非訟法第90条第9項)。また、裁判所は、管理すべき財産がなくなったときその他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、所有者不明土地管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、所有者不明土地管理命令を取り消さなければならないこととされた(同条第10項)。
所有者不明土地管理命令を取り消す裁判があったときは、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分について、所有者不明土地管理命令の登記の抹消を嘱託しなければならないこととされた(同条第7項)。
イ 所有者不明土地管理命令の登記の抹消の記録例は、別紙の1(2)のとおりとする。
ウ 所有者不明土地管理命令の変更の例としては、所有者不明土地管理命令がされた後、対象である共有持分に係る共有者の一部が判明したため、所有者不明土地管理命令の対象となる共有持分の範囲及び割合を変更する場合等がある。この場合には、裁判所書記官から、所有者不明土地管理命令の登記の変更の嘱託がされることになる。
なお、この場合には、所有者不明土地管理命令の登記の変更の前提として、所有権の更正の登記をする必要がある。
エ 所有者不明土地管理命令の変更の登記の記録例は、別紙の6のとおりとする。
(3) 所有者不明土地管理人の権限
ア 所有者不明土地管理人が選任された場合には、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産(以下「所有者不明土地等」という。)の管理及び処分をする権利は、所有者不明土地管理人に専属することとされた(改正民法第264条の3第1項)。また、所有者不明土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならないこととされた(同条第2項)。
一 保存行為
二 所有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又
は改良を目的とする行為
イ 所有者不明土地管理人は、裁判所の許可を得て、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分を売却することができる。この場合には、売買を登記原因とする所有権移転の登記の申請は、当該土地又は共有持分に係る所有権の登記名義人が登記義務者となり、所有者不明土地管理人がその代理人となって、買受人と共同して行うことになる。この場合には、代理人の権限を証する情報及び印鑑証明書として管理人の印鑑証明書が、承諾を証する情報として当該売却についての裁判所の許可に係る裁判書の謄本が、それぞれ必要となる。なお、登記識別情報を提供することを要しない。
2 所有者不明建物管理命令
裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物(建物が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る建
物又は共有持分を対象として、所有者不明建物管理人による管理を命ずる処分(以下「所有者不明建物管理命令」という。)をすることができることとされた(改正民法第264条の8第1項)。また、裁判所は、所有者不明建物管理命令をする場合には、当該所有者不明建物管理命令において、所有者不明建物管理人を選任しなければならないこととされた(同条第4項)。さらに、所有者不明建物管理命令があった場合には、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、所有者不明建物管理命令の対象とされた建物又は共有持分について、所有者不明建物管理命令の登記を嘱託しなければならないこととされた(改正非訟法第90条第16項において準用する同条第
6項)。所有者不明建物管理命令の登記、所有者不明土地管理命令の取消し(改正非訟法第90条第16項において準用する同条第9項及び第10項)及びその登記(改正非訟法第90条第16項において準用する同条第7項)、登録免許税並びに所有者不明建物管理人の権限(改正民法第264条の8第5項において準用する改正民法第264条の3)等については、所有者
不明土地管理命令の場合(前記1)と同様である。
なお、所有者不明建物管理命令の登記及びその抹消の記録例は、別紙の2のとおりとする。
第3 管理不全土地管理命令又は管理不全建物管理命令
1 管理不全土地管理命令
(1) 裁判所は、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該土地を対象として、管理不全土地管理人による管理を命ずる処分(以下「管理不全土地管理命令」という。)をすることができることとされた(改正民法第264条の9第1項)。また、裁判所は、管理不全土地管理命令をする場合には、当該管理不全土地管理命令において、管理不全土地管理人を選任しなければならないこととされた(同条第3項)。この場合において、管理不全土地管理人は、管理不全土地管理命令の対象とされた土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により管理不全土地管理人が得た財産(以下「管理不全土地等」という。)の管理及び処分をする権限を有することとされた(改正民法第264条の10第1項)。さらに、管理不全土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならないこととされた(同条第2項)。
一 保存行為
二 管理保全土地等の性質を変えない範囲において、その利用又は改良を目的とする行為、また、管理不全土地管理命令の対象とされた土地の処分について、裁判所が上記許可をするには、その所有者の同意がなければならないとされた(同条第3項)。
(2) 所有者不明土地管理命令と異なり、管理不全土地管理命令があった場合であっても、管理不全土地管理命令の登記はされない。管理不全土地管理人が、裁判所の許可を得て、管理不全土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分を処分した場合の登記の申請の取扱いについては、所有者不明土地管理命令の場合と基本的に同様である。
なお、管理不全土地管理命令の対象とされた土地の処分に係る登記の申請については、裁判所の許可に係る裁判書の謄本とは別に、所有者の同意があったことを証する情報を添付情報とすることは要しない。
2 管理不全建物管理命令
裁判所は、所有者による建物の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該建物を対象として、管理不全建物管理人による管理を命ずる処分(以下
「管理不全建物管理命令」という。)をすることができることとされた(改正民法第264条の14第1項)。また、裁判所は、管理不全建物管理命令をする場合には、当該管理不全建物管理命令において、管理不全建物管理人を選任しなければならないとされた(同条第3項)。この場合における管理不全土地管理人の権限(改正民法第264条の14第4項において準用する改正民法第264条の10)及び管理不全建物管理人が、裁判所の許可を得て、管理不全建物管理命令の対象とされた建物又は共有持分を処分した場合等の取扱いについては、管理不全土地管理命令の場合と基本的に同様である