相続放棄はいつまでに? 期間と期限がわかります!

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司法書士さいとう司法書士事務所
青森市大野でさいとう司法書士事務所を経営している代表齋藤洋介です。 相続を中心として業務を行っています。 趣味は自転車(ロードバイク)、青森市内のラーメン店巡り、司馬遼太郎の小説を読むことです。
相続放棄いつまで

  相続放棄の期間と期間のはじまりはいつなのか。期間は延長できるのか、期間経過後に相続放棄はできるのかについて解説しています。

相続放棄は3か月の期間内にしないといけません

相続放棄は3か月以内にしないといけないということは知っているかたも多いと思います。

この3か月のあいだに相続放棄の書類を作成して家庭裁判所に申立をします。

関連記事【相続放棄の手続きの流れ|相続放棄申述書の書き方、必要書類は?

しかし、いつからいつまでなのかを正確に知っている人は少ないのではないでしょうか。

3か月というのは知っていても期間の始まりと終わりを押さえておかないと、期間を過ぎていてもう相続放棄はできないということもありえます。

ちなみに民法915条第1項には以下のように書いています。

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から、3か月以内に、相続について単純若しくは限定の承認または放棄をしなければならない。

この条文によると

相続放棄の期間のスタート時点は、自己のために相続の開始があったことを知った時。

期間の終わりは、3か月経過後。

ということになります。たとえば4月1日に知ったら、7月2日までが相続放棄の期間になります。

しかし、条文が抽象的すぎてよくわからないですよね。

特に「自己のために相続の開始があったことを知った」とは具体的にいつを指すのかというのはよくわかりません。

 

自己のために相続の開始があったことを知った日はいつ?

この点については判例というものがあり、それにはこう書いています。

相続人が相続開始の原因たる事実の発生を知り、かつ、そのために自己が相続人となったことを知覚したときを指す。(大正15.8)

正直、この判例も抽象的でますますよくわからなくなったと思いますが、

大事なことが2点ほど書いてあります。それは

  • 相続開始の原因となったという事実を知った
  • そのために自分が相続人となったことを知った

です。

この2点をそれぞれのケースに当てはめていくことになります。

くわしくは法定相続人の順位で「知った日」が変わってきます。

相続人には順位があり、順位が上の人が相続放棄をしないかぎり、下の人は相続できません。

相続の順位は、

第1位 被相続人の子
第2位 被相続人の父母
第3位 被相続人の兄弟姉妹

 

となっています。被相続人の配偶者は常に相続人となります。

兄弟姉妹が相続するのは、子と父母がすでに亡くなっているか、または全員が相続放棄をしているときです。

関連記事【法定相続人には優先順位があります

被相続人の子と配偶者の「相続開始を知った日」はいつ?

このケースは単純です。被相続人が亡くなったのを知った日が、自己のために相続の開始があったことを知った日になります。

法定相続人の最優先順位ですから、被相続人が亡くなったことを知れば同時に自分が相続人であることもわかるからです。

被相続人の父母または兄弟姉妹の「相続開始を知った日」はいつ?

このケースでは、被相続人が亡くなったのを知った日がそのまま相続開始を知った日になるわけではありません。

というのも、被相続人が亡くなっても先順位の子がいるかぎり相続人にはならないからです。

ですから、先順位の人が相続放棄をしたのを知って初めて自分が相続人であることを知ります。

つまり、

  • 被相続人が亡くなったのを知った
  • 先順位の人が全員相続放棄をしたのを知った

この2点を知った日が「相続開始を知った日」となります。

未成年の「相続開始を知った日」はいつ?

未成年者が単独で相続放棄はできません。ですから、相続人が未成年の場合、法定代理人を基準にして考えます。

法定代理人は大概のケースでは親ですので、が被相続人が亡くなったのを知った日、先順位の人が全員相続放棄をしたのを知ったが「相続開始を知った日」となります。

親が子に代わって相続放棄をするときは利益相反に注意しないといけません。くわしくは下記の記事をごらんください。

関連記事【親子間で利益相反行為になる例は?

 

相続放棄はあらかじめできない

相続放棄の相談をしているとたまに

「被相続人の生前に相続放棄はできますか?」という質問を受けることがあります。

結論から言うと、あらかじめ相続放棄はできません

 

相続放棄の期間延長

相続放棄の期間(正確には熟慮期間と言います)は延長することができます。

案件によっては相続人が海外に住んでいたり、財産が全国あちこちに散らばっていたりすると3か月ではとても間に合わないことがあるからです。

そこで家庭裁判所が期間を延長してくれることがあります。ただし、裁判所が勝手に延長してくれるわけではありません。

法定相続人といった利害関係人検察官が家庭裁判所に申し立てないといけません。

期間の延長は家庭裁判所が申立を受けて決めます。その結果、延長を認めたり、または認めなかったりとケースバイケースです。

1か月なのか半年なのか、どれくらい延長するのかも家庭裁判所が決めます。

 

相続放棄期間を経過してしまったら

相続放棄の期間は3か月で、その間に承認、限定承認、放棄のいずれかをします。

それでは期間を過ぎてしまったら、もう絶対に相続放棄はできないのでしょうか?

必ずしもそうではありません。

特別な事情があれば期間が過ぎても相続放棄ができます。

これには判例があり、長いですが以下に引用します。

 相続人が相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3か月以内に限定承認または相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて、当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるにつき相当な理由があると認められるときは、民法915条1項の熟慮期間は、相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時または通常これを認識しうるべき時から起算する。

(最判昭和59.4.27)

簡単にいうと以下の3点を満たしたら、期間経過後でも相続放棄が認められます。

  • 被相続人に相続財産が全く存在しないと信じた
  • 相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があった。
  • 相続人において上記2点を信ずるにつき相当な理由がある。

たとえば、商売を営んでいた被相続人が亡くなって、しばらくたった後(熟慮期間経過後)に債権回収業者から債務があることを知らせる電話などがくることがあります。

相続人が子と配偶者の場合、原則では亡くなったのを知った日が熟慮期間のスタート時点となりますが、

特別な事情であると認められたら、債権回収業者からの連絡を受けた時からスタートとなります。