相続放棄とは?メリットデメリット、撤回はできる?
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相続をしたけど借金のほうが多いときは、相続放棄をします。
ここでは相続放棄とはなにか。相続放棄をしたらどうなるか。
相続放棄には期限があり、期限内に放棄しないといけないこと、撤回について書いてます。
相続放棄とは
突然ですが、借金を持った人が亡くなったと想像してみてください。プラスの財産(現金、預金とか不動産など)よりも借金の額がおおい人です。
だれだって相続したくないですよね。
しかし、だれかが亡くなるとその人のプラスの財産もマイナスの財産もすべてが法定相続人に相続されます。
たとえば、青森で亡くなった人の相続人が東京に住んでいたとします。そうすると亡くなった人の財産はたとえ青森の土地であっても、瞬時に東京の相続人のものとなります。
亡くなった瞬間に所有権が変わる。これが相続の法律上の性質です。
ですから、借金も瞬時に相続されることになります。借金取り(債権者)も相続人のほうに取り立てにきます。
それでは相続人はどうしたらいいでしょうか。
ちなみに相続人が何人かいて、遺産分割協議をしてだれか1人に借金を相続させても債権者には通じません。
債権者にはそれぞれの相続人にたいして法定相続分の借金を請求する権利があります。
債権者と話し合って、借金をだれか1人に引き継いでもらうことは可能です。これを債務引受といいます。
しかし、債権者の同意を得ることができなかったら、債務引受はできません。
そこで相続放棄をするのです。
相続放棄の効力は民法第939条に書いてます。
第939条
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
条文に書いてあるとおり、相続放棄をすると相続人ではなかったことになるので、プラスであれ、マイナスであれ、すべての遺産を一切合切相続しないことになるのです。
これが相続放棄です。
相続放棄の効果 メリットとデメリットは?
相続放棄をするとどうなるでしょうか。放棄をするとさまざまな効果があり、相続放棄した人にとっていいことだけではなく悪いこともあります。
マイナスの財産を相続しなくてもいい
相続放棄のイチバンの目的はこれでしょう。マイナスの財産のほうが多いときは相続放棄をすると故人の債務から逃れることができます。
また、相続放棄は絶対で、たとえば放棄した人の子供も債務から解放されます。
そもそも相続放棄という制度自体が先祖の負債を永遠に継いでいくのは非人道的だという考えからできているからです。
遺産分割協議に参加しなくてもいい
相続放棄は相続人のうちのひとりからでも、全員でもできます。全員が相続放棄したら相続人がいなくなりますが、それについては後ほど。
さて、相続人のだれかひとりが相続放棄をしたら、その人はもう遺産分割協議に参加する必要はありません。
もはや相続人ではなかったことになるので、参加しなくてもいいのです。つまり、相続にともなうわずらしさがなくなります。
プラスの財産も相続できない
マイナスの財産を相続しなくてもいい代わりにプラスの財産も相続できません。
ですから、相続放棄をするときはしっかりと財産調査をすることが大事です。それでマイナスの財産のほうがおおいと確認できたら、相続放棄をするべきです。
相続放棄で相続人が変わる!?
なんども繰り返しになりますが、相続放棄をするとはじめから相続人ではなかったことになります。
法定相続人には順位があります。法定相続人の順位については関連記事をごらんください。
関連記事【自分は相続人?法定相続人がわかる!】
ということは、上の順位の相続人の全員が相続放棄をしたら、下の順位の人がくりあがって相続人になってしまいます。
下のイラストをごらんください。
このような状況で兄が亡くなったとします。そうすると法定相続人の順位は以下のイラストのようになります。
兄が亡くなった時点での相続人は、兄の息子、娘、嫁です。この三人がいっせいに相続放棄をするとどうなるでしょうか。
第1順位の相続人がいなくなってしまった結果、第2順位の相続人がくりあがり、こんどは父と母が相続人になります。
ついで父と母も相続放棄をしたら、第3順位の弟と妹がくりあがって相続人になります。
このように、特に借金がおおいケースだと、相続放棄の連鎖がおきやすくなります。
余談ですが、第3順位の弟と妹も相続放棄をしたら、ついに相続人はいなくなってしまいます。
借金を清算しても財産が残っていて、なおかつ、相続人がいないと家庭裁判所は財産管理をする人を選任します。
そして、ある程度の期間、選任された人(弁護士とか司法書士)が財産管理をします。その後に国のもの(国庫に帰属)になります。
相続放棄には期限がある
相続放棄はいつでもできるわけではありません。決まった期間内にする必要があります。
それ以前でもそれ以後でもできません。次の民法の条文をごらんください。
民法915条第1項
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認または放棄をしなければいけない。
期限は3か月以内です。この期間のことを熟慮期間といいます。
もし相続放棄をしたければこの間にしないといけません。
期間内に限定承認または放棄をしなければ単純に承認したということにされます。世の中の大半の相続はこれです。
さて3か月のスタート時点ですが、注意していただきたいのが、単に被相続人が亡くなったのを知った日ではありません。
被相続人が亡くなって、自分が相続人だと知った日がスタート時点です。
なぜちょっとややこしいことになっているかというと、世の大半は被相続人が亡くなったイコール自分が相続人だと知った、なんですが、
遠縁の人が亡くなったことは知ってたけど、自分がその相続人だったということを後から知ったということもままあるからです。
亡くなった日をスタート時点とすると、そういう人たちが相続放棄できなくなるので、条文のような表現で配慮しているのです。
相続放棄の撤回はできない
いちど相続放棄をしたら、「やっぱり放棄やめた。」とは言えません。相続放棄の撤回はできないのです。
というのも、不動産とか預金口座の名義変更などなど結構なエネルギーをつかって相続を済ませたのに、
あとになって相続放棄を撤回されると、また相続手続きをやり直さないといけないからです。
さすがにそれは許されません。たとえ熟慮期間中の3か月内でも相続放棄をしたら撤回はできません。
ただし、詐欺や脅迫などにあった場合は別です。これで撤回できないとなるとかわいそうですから、撤回できます。
まとめ
- 相続放棄は相続人でなくなることをいう。
- 放棄はまるごと放棄しないといけない。部分的な放棄はできない。
- 3か月の熟慮期間内にしないといけない。
- 相続放棄は原則、撤回できない